大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)4990号 判決 1981年2月12日
原告 破産者高橋工機株式会社 破産管財人 谷五佐夫
被告 山川興産株式会社
右代表者代表取締役 山川清一
右訴訟代理人弁護士 中谷茂
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1.被告は、原告に対し、一一〇二万五四九八円およびこれに対する昭和五二年九月二四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2.訴訟費用は、被告の負担とする。
3.仮執行宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1.訴外高橋工機株式会社(以下「訴外会社」という。)は、昭和五一年一一月九日大阪地方裁判所で破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。
2.(一)訴外会社は、昭和五〇年一〇月一三日不渡手形を出して事実上倒産したが、同年一一月二六日開催された債権者委員会において、被告が債権者委員長に就任した。
(二)訴外会社は、昭和五〇年一二月九日整理の一環として銀行等金融機関から各種預金を解約して引出したうえ、これに被告からの借入金を加えて銀行等、かねて訴外会社が割引いていた約束手形を受戻してこれら受戻手形を被告に預託した。その内容は次のとおりである(別表(一)参照。)。
(1)株式会社京都銀行門真支店において、定期預金および当座預金契約を解約し、元利金三八三万三八〇七円を受取るべきところ、差押転付命令を受けていた訴外会社が国民金融公庫に支払うべき一一〇万八四八一円を差引かれ、さらに訴外会社が割引いていた手形二通
(イ)三菱商事工作機械株式会社(以下「三菱工機」という。)振出の昭和五〇年一二月一五日満期、額面二〇〇万円の約束手形
(ロ)被告振出の昭和五〇年一二月二六日満期、額面二〇〇万円の約束手形
の受戻を要求されたため、手形割引戻し金(一万三三三二円)の払戻を受け、右預金残金に被告から借り受けた一二六万一四四二円を加えて四〇〇万円とし、これを同銀行に支払って右手形二通(額面合計四〇〇万円)を受戻し、これを被告に預託した。
(2)株式会社三和銀行大和田支店において、定期預金および当座預金契約を解約し、元利金四〇〇万四八九四円を受取るべきところ、同店に対し金銭消費貸借による元利金一九四万六八一五円の支払義務があったので控除され、さらに訴外会社が割引いていた手形二通
(ハ)三菱工機振出の昭和五〇年一二月一五日満期、額面二五〇万円の約束手形
(ニ)入江金属工業株式会社振出の昭和五一年一月六日満期、額面二〇万八〇〇〇円の約束手形
の受戻を要求され、手形割引戻し金(五九三〇円)の払戻を受け、右預金残金に被告から借り受けた六四万三九九一円を加えて二七〇万八〇〇〇円とし、これを同銀行に支払って右手形二通(額面合計二七〇万八〇〇〇円)を受戻し、これを被告に預託した。
(3)大阪信用金庫都島支店において、定期預金および定期積金契約(四九一万八一四六円)を解約し、利子税(二万〇〇七四円)を差引かれた元利金四八九万八〇七二円および出資金清算金一二万円を受取るべきところ、同店に対し借入金の元利金八一万四九三二円の支払義務があったので控除され、さらに訴外会社が割引いていた手形六通
(ホ)被告振出の昭和五〇年一一月二六日満期、額面一五〇万円の約束手形
(ヘ)被告振出の昭和五一年三月二六日満期、額面五〇〇万円の約束手形
(ト)長尾鉄工株式会社振出の昭和五〇年一二月二〇日満期、額面八〇万円の約束手形
(チ)石井正振出の昭和五一年一月三一日満期、額面八万円の約束手形
(リ)前記入江金属工業振出の昭和五一年三月五日満期、額面四九万二〇〇〇円の約束手形
(ヌ)新興工業株式会社振出の昭和五一年一月三一日満期、額面一二万円の約束手形
の買戻を要求され、手形割引戻し金(一六万四六九一円)の払戻を受け、右預金残金に被告から借り受けた三六二万四一六九円を加えて、七九九万二〇〇〇円とし、これを同金庫に支払って、右手形六通(額面合計七九九万二〇〇〇円)を受戻し、これを被告に預託した。
預託の内容は、以上のとおりであるが、被告は、以上(イ)ないし(ヌ)の手形一〇通のうち被告振出にかかる(ロ)、(ホ)、(ヘ)の三通については訴外会社に各満期に手形金額の支払をしておらず、他の七通の手形についてはいずれも各満期に支払を受けているので、結局訴外会社は、手形金額の合計一四七〇万円を被告に預託したことになる。
したがって、被告は、原告に対し、右預託金合計一四七〇万円から、被告の貸付金合計五五二万九六〇二円を差引いた九一七万〇三九八円を返還すべき義務がある。
3.一方、訴外会社は昭和五〇年九月ごろ被告との間で、次のとおりの契約を締結した。
(一)被告は、訴外会社に対して資金援助を行う。
(二)訴外会社に対する注文は、すべて被告を通して受注する。
(三)被告を通して受けた注文によって得た利益は、訴外会社が六割、被告が四割取得する。
4.(一)被告は、昭和五〇年一〇月一日三菱工機福岡出張所から訴外藤宝実業株式会社に納品するガンドリルマシン形式TGA-三〇〇S(以下「三〇〇S」という。)一台を代金三九三万円で受注し訴外会社に生産させたうえ、昭和五一年四月一三日に納品し、同年六月一五日に代金を受領した。
(二)右三〇〇Sの製造原価(被告から訴外会社に対する発注金額)は、二九〇万円であった。
(三)被告は、右三〇〇Sの販売にあたり経費として、一〇万二〇〇〇円を立替えて支払った。
(四)受注代金から右(二)、(三)の製造原価、立替金を差引いた残額(九二万八〇〇〇円)の六割が訴外会社の取得する利益であるから、その金額は五五万六八〇〇円である。
(五)したがって、被告は、原告に対し、右(二)の製造原価と(四)の利益の合計額三四五万六八〇〇円を支払う義務がある。
5.(一)被告は、昭和五〇年八月一八日三菱工機から訴外東北ムネタカ株式会社に納品するガンドリルマシン型式TGA一一〇〇NT(以下「一一〇〇NT」という。)一台を代金一二二〇万円で受注し、訴外会社に生産させたうえ、同年九月二五日に納品し、同年一一月二八日に三菱工機振出の約束手形で右代金の支払を受け、右手形は満期に支払われた。
(二)右機械の製造原価は六七〇万円であり、訴外会社は既に支払を受けた。
(三)三菱工機の支払手形の割引料は五パーセントすなわち六一万円であり、被告は右機械の販売にあたり経費として三八万二五〇〇円を立替えて支払った。
(四)受注代金から右(二)、(三)の製造原価、手形割引料、立替金を差引いた残額(四五〇万七五〇〇円)の六割が訴外会社の取得する利益であるから、その金額は二七〇万四五〇〇円である。
(五)したがって、被告は、原告に対し、右金額二七〇万四五〇〇円を支払う義務がある。
6.(一)一方訴外会社は、昭和五〇年一二月ごろまでに被告から次のとおり総額四一〇二万一一〇〇円を借り受けた。なお、借入金には利息の定めはなかった。
(1)(イ)昭和五〇年七月一八日に、一〇〇〇万円
(ロ)同年八月八日に、一三〇万円
(ハ)同月一三日に、二〇〇万円
(ニ)同月一八日に、一〇〇〇万円
計二三三〇万円
(2)昭和五〇年九月一三日に、手形不渡防止のために、六一〇万円
(3)昭和五〇年九月一八日に、手形不渡防止のために、五八四万九四〇〇円
(4)昭和五〇年一〇月三一日に、八三万一七〇〇円
(5)訴外会社は、訴外株式会社カネモト振出の約束手形三通(額面合計四九四万円)に第一裏書をして被告に交付し、被告から割引金をえていたが、いずれも不渡りとなったため被告が次のとおり弁済して訴外会社に対する遡求権を取得した。
(イ)昭和五〇年一一月一七日に、二四四万円
(ロ)昭和五〇年一二月八日に、一二五万円
(ハ)昭和五〇年一二月二五日に、一二五万円
(二)訴外会社は、昭和五〇年九月一一日被告に対し、右(一)(1)の債務について別紙目録(一)記載の機械を譲渡担保に差入れていたが、同年一二月ごろ右目録(一)記載の機械を含めて別紙目録(二)記載の機械を、総額三三二一万五〇〇〇円の左記債務の支払に代えて引渡した(なお、かりに総額が右金額に充たないとすれば、左記の順に弁済された。)。
(1)同(一)(5)(ロ)の債務の一部(後記(三)による弁済充当の残額)一九万円
(2)同(一)(5)(ハ)の債務一二五万円
(3)右(一)(1)の債務二三三〇万円
(4)同(一)(2)の債務六一〇万円
(5)同(一)(3)の債務の一部二三七万五〇〇〇円
(三)被告は、右(一)(5)記載の四九四万円のうち三五〇万円について、訴外株式会社カネモトから昭和五一年五月七日に支払を受けており、これによって右(5)(イ)の全額および(5)(ロ)の債務の一部一〇六万円が消滅したことになる。
(四)したがって、訴外会社が、被告に対して支払義務を負う借入金債務の額は、右(一)の総額から(二)および(三)の三五〇万円を差引いた、四三〇万六一〇〇円である。
7.よって、原告は、被告に対し、右預託金から被告の貸付金を差引いた九一七万〇三九八円および機械代金総額六一六万一三〇〇円右合計一五三三万一六九八円から、訴外会社の借入金残金四三〇万六一〇〇円を控除した一一〇二万五五九八円の内金一一〇二万五四九八円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年九月二四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、被告の主張
1.請求原因1項の事実は認める。
2.同2項の(一)の事実は認める。(二)の事実のうち、原告主張のように約束手形一〇通(額面合計一四七〇万円)を受取ったこと、右約束手形を訴外会社が各金融機関から受戻す際、原告主張のとおりの手形引戻し金の払戻があったこと、またその際、被告が訴外会社に五五二万九六〇二円を貸付けたことは認めるが、その余は否認する。三和銀行、京都銀行および大阪信用金庫からの手形割引戻し金合計一八万三八五三円は、右貸付金(五五二万九六〇二円)の金利と考えるべきであるからこれを被告の債権額に加算すべきである。また、右手形一〇通のうち、被告振出分以外の七通を割引いて六一四万九七三六円の入金があったにすぎないから、これが預託額になるべきである。これらの差額が訴外会社の被告に対する債権となるが、右債権は後記被告の貸金債権と相殺した。
3.同3項(一)、(二)の事実は認める。(三)の事実は否認する。
4.(一)同4項(一)の事実のうち、受注金額、受注年月日は否認し、その余の事実は認める。
受注金額は、当初三九三万円であったが、昭和五一年三月二九日に三二〇万円に変更になった。
受注年月日は、昭和五一年三月二九日であり、代金受領日は同年六月一五日であるが、同年一一月三〇日満期の約束手形で支払を受けた。
(二)同4項(二)の事実は否認する。訴外会社への発注金額は二七三万六〇〇〇円である。すなわち、受注金額から手形割引料五パーセント(月一パーセントで五か月分)一六万円と被告の利益分(受注金額から手形割引料を控除した額の一割)三〇万四〇〇〇円を控除した額である。
(三)同4項(三)の事実は否認する。被告の立替金は一八万二〇〇〇円である。
(四)同4項(四)の事実は否認し、(五)は争う。
右機械販売により訴外会社の受取るべき額は、訴外会社への発注金額より被告の立替金を控除した二五五万四〇〇〇円であるが、これも後述のように、被告の訴外会社に対する反対債権と昭和五一年六月一五日に相殺している。
5.(一)同5項(一)の事実のうち、手形の受領年月日を除いて認める。被告が右手形を受取ったのは昭和五〇年一一月二九日である。
(二)同5項(二)、(三)の事実は認める。
(三)同5項(四)の事実は否認し、(五)は争う。
訴外会社の取得する利益は、受注代金から、手形割引料、製造原価を控除した額の六割である二九三万四〇〇〇円である。そして右金額から被告の立替分三八万二五〇〇円を控除した二五五万一五〇〇円が現実に受取るべき利益であるが、これも後述のとおり、昭和五五年一月三一日に被告の訴外会社に対する貸付金と相殺した。
6.(一)同6項(一)の事実はすべて認める。しかし、被告はさらに次にのべるとおり訴外会社に対する債権を有しており、その総額は五三三五万八六二四円である。
(1)現金および手形での貸付に関して、原告の主張には次の貸付金が脱落している。
(イ)昭和五〇年九月一八日に、矢田氏の出張費として、二万円
(ロ)昭和五〇年一〇月一六日に公正証書作成費用として、八二〇〇円
(ハ)昭和五〇年一〇月三一日に比良昌俊への給料として、二〇万二〇〇〇円、矢田城喜への給料として、一九万〇二〇〇円
したがって、現金および手形による貸付金は、原告の主張に右金額を加算すると、四一四四万一五〇〇円となる。
(2)訴外会社の再建のために会議した費用総額二五万九七七九円を被告は次のとおり立替えた。
(イ)昭和五〇年九月一六日に、一万〇三〇〇円
(ロ)昭和五〇年九月一八日に、一万八〇〇〇円
(ハ)昭和五〇年一〇月一日に、七万二六二五円
(ニ)昭和五〇年一〇月二日に、一万二二五〇円
(ホ)昭和五〇年一〇月六日に、二万二六八二円と三万五〇〇〇円
(ヘ)昭和五〇年一〇月二二日に、三万三九五〇円
(ト)昭和五〇年一一月一七日に、五万四九七二円
(3)訴外株式会社カネモトの不渡手形取立のため被告は裁判費用として、五三万六〇四〇円を支出した。
(イ)昭和五〇年一二月八日に加藤幸則弁護士へ着付金として、二〇万円
(ロ)昭和五〇年一二月一二日に印紙代として、三万六〇四〇円、山口への出張費として、二万五〇〇〇円
(ハ)昭和五一年一月九日、同年三月一日、同年四月一六日にいずれも山口への出張費として、各二万五〇〇〇円
(二)昭和五一年五月一〇日に加藤弁護士に報酬として、二〇万円
(4)昭和五〇年七月一八日から昭和五二年九月三〇日までの右貸付金総額に対する未収利息は、一一五七万〇一〇九円である。
被告と訴外会社との間の金銭貸借取引に関しては日歩五銭の利息をつける約定があった。そこで被告の認めた請求原因2項、4項ないし6項記載の取引のほか、被告の主張6項(1)ないし(3)記載の取引関係を、その年月日順に記載した表が別表(二)(ただしこの別表(二)には、後述の高橋大阪フロックへ販売した機械代金が入金欄に記載されている。)であり、これに基づいて、昭和五二年九月三〇日までの未収利息を日歩五銭の割で計算すると別表(三)記載のとおり、総額一一五七万一〇九円となる。
(5)そして右(1)ないし(4)の合計額から前述のとおり被告の主張2項で主張した預託された手形に関する訴外会社の債権四四万八八〇四円を抹殺すると、被告の訴外会社に対する債権額は五三三五万八六二四円となる。
(二)同6項(二)の事実のうち、被告が機械類で譲渡担保をえていたこと、その後代物弁済を受けたことは認めるが、その機械は目録(三)記載のとおりであって、目録(二)記載のものとは一致せず、価格も六二六万一〇〇〇円にすぎない。
代物弁済を受けた機械のうちで販売できたのは、前述の三〇〇S一台の二五五万四〇〇〇円と、昭和五一年六月二五日に高橋大阪フロックに販売した一台三五〇万七〇〇〇円だけであり、その他の機械類の残存価格はスクラップとして二〇万円の価格しかない。したがって、代物弁済の価格は、六二六万一〇〇〇円である。
(三)同6項(三)の事実は認める。
7.(一)訴外会社は、被告より金銭を借入するに際し、訴外会社も被告に対して債権を有した場合には、被告の有する反対債権と相殺してくれるようにと申出を受けていたので、被告は、訴外会社の債権が生ずれば、そのつど相殺してきた。すなわち、被告の有する債権額は前述のとおり五三三五万八六二四円であったが、うち次の金額(二〇八一万二五〇〇円)については相殺ずみである。
(イ)預託された手形のうち被告振出分については、(ホ)の手形(額面一五〇万円)は昭和五〇年一一月二六日付で、(ロ)の手形(額面二〇〇万円)は同年一二月二六日に、(ヘ)の手形(額面五〇〇万円)は昭和五一年三月二六日
(ロ)三〇〇Sの機械代金(二五五万四〇〇〇円)は昭和五一年六月一五日
(ハ)一一〇〇NTの機械代金(二五五万一五〇〇円)は昭和五一年一月三一日
(ニ)株式会社カネモトよりの不渡手形金三五〇万円は昭和五一年五月七日
(ホ)高瀬産業を介して高橋大阪フロックへ販売した機械代金(三五〇万七〇〇〇円)は昭和五一年六月二五日
(ヘ)その他の機械代 二〇万円
計二〇八一万二五〇〇円
(二)したがって、被告は現在三三五四万六一二四円の債権を有している。被告は、原告に対し、昭和五五年九月一二日の本件口頭弁論期日において、右債権をもって原告の本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
第三、証拠<省略>
理由
一、請求原因1項、同2項(一)の事実はいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、証人高橋勝の証言(第一回)、被告代表者尋問の結果を総合すると、訴外会社は、工作機械の製造会社であり、被告は訴外会社から工作機械を購入して他に販売していたものであるところ、訴外会社は昭和五〇年の初ごろに不渡を出して経営が苦しくなり出し、同年七、八月ごろには被告の資金援助を受けることになり、その見返りとして被告を訴外会社の販売会社とすることになったこと、そして、訴外会社は、被告の資金援助をうけて営業を続けていたが、同年一〇月一三日に再び不渡を出したこと、その後訴外会社の私的債権者会議がもうけられ、被告会社の代表者山川清一がその委員長になったこと、しかし、訴外会社は、昭和五一年一一月九日破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任されたことが認められる。
二、そこでまず、訴外会社が被告に対し、約束手形一〇通を引渡した際の被告と訴外会社の債権債務関係について判断する。
1.請求原因2項(二)事実のうち、被告が原告主張の約束手形一〇通(額面合計一四七〇万円)を受取ったこと、その約束手形を金融機関から訴外会社が受戻す際、原告主張のとおりの手形割引戻し金があったこと、その際、被告が訴外会社に五五二万九六〇二円貸付けたことは、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第六号証の一ないし二四、第七号証の一ないし一四、第八号証の一ないし一八、証人高橋勝(第一回)の証言を総合すると、請求原因2項の(二)の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
2.そして弁論の全趣旨によれば、右手形一〇通のうち、被告振出の約束手形三通((ロ)、(ホ)、(ヘ)、額面合計八五〇万円)については、被告は満期が到来しても訴外会社に対して何ら支払をせず、他の手形七通については、被告はこれを割引いたところ、各満期にいずれも支払がなされたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
3.そうすると、被告は、右手形金総額一四七〇万円について、各手形の満期日から券面額について訴外会社に対し返還すべき義務を負い、訴外会社は、被告が貸付けた五五二万九六〇二円を昭和五〇年一二月九日から支払う義務を負っていることになる。
なお被告は、被告の貸付債権額は、右貸付金に手形割引戻し金を加えた金額である旨主張するが、前認定のように預金等の元利金、手形割引戻し金等を銀行が相殺した残額と手形金額との差額を被告が貸付けたのであるから、被告の貸付金は五五二万九六〇二円である。
また被告は、被告振出以外の手形七通の割引額(六一四万九七三六円)を被告の入手金額(被告の返還すべき金額)とすべきであると主張するが、手形が支払のため交付され、それが満期に支払われ場合には、たとえ満期以前に受取人が手形を割引いて券面額より少い金額しか引取っていないとしても、手形の額面金額をもって弁済額と解するのが相当であるから、被告は割引額ではなく券面額を返還すべき義務がある。被告の主張はいずれも失当である。
三、次にガンドリルマシン三〇〇Sに関して訴外会社の取得すべき金額について検討する。
1.請求原因3項(一)、(二)の事実は当事者間に争いがなく、証人高橋勝の証言(第一回)、被告代表者尋問の結果(第一回)によると、同3項(三)の事実のほか、訴外会社と被告との間では、機械類の販売利益の計算にあたっては、受注金額から月一パーセントの割合の手形割引料を控除することになっていたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
2.そして請求原因4項の(一)の事実のうち受注金額、受注年月日を除く事実は当事者間に争いがなく、右事実に、いずれも成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一〇ないし第一六号証、証人高橋勝の証言(第一回)の証言、被告代表者尋問の結果(第一回)を総合すると、被告は、昭和五〇年一〇月一日三菱工機福岡出張所より藤宝実業株式会社に納品する三〇〇S一台を、代金三九三万円、納期同月三日、標準付属品一式および特別付属品としてワーク回転装置一式と四 ガンドリル一個を装備する約定で受注し、同年一〇月末ごろ納入したのであるが、その後訴外会社が破産状態に陥いったため、右三〇〇Sの今後の維持管理やアフターサービスに危惧を抱いた三菱工機より解約の申出がなされ、交渉の結果、今後の機械の維持管理等は三菱工機が行うこととして、その代金額を三二〇万円に減額することとし、昭和五一年三月二九日被告と三菱工機との間において、当初の受注契約を解約したうえ、改めて受注代金を三二〇万円、その他の約定は前と同一内容の受注契約を締結し、同年四月一三日右三〇〇Sを納品したこととして、被告は、同年六月一五日に同年一一月三〇日満期の額面三二〇万円の約束手形を受取り、同日これを割引いて、割引料として額面の五パーセント(一六万円)を控除した残額三〇四万円を取得したこと、そして右三〇〇Sの販売にあたっては被告は、利益として四割を取得できることとなっていたが、訴外会社の状態を考え一割(三〇万四〇〇〇円)のみ請求することとし、そのほかガンドリル代三万円、ウイツプガイド四〇 代二万円、ブツシユ代一万二〇〇〇円、電気工事代四万円、塗装代三万円、試運転のための出張費五万円の合計一八万二〇〇〇円を訴外会社のために立替えて支払ったことが認められ、右認定に反する証人高橋勝の証言(第一回)は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
なお、甲第二号証の一には、被告の立替金として、一〇万二〇〇〇円の記載があるが、その作成日が昭和五〇年一一月五日であって、当初の契約が解除される以前であり、甲第一号証と対比すると解約日以後の立替金の記載を欠いていることを考えると、右証拠をもってしては、右立替金額の認定を左右するものではない。
3.してみると、三〇〇Sの受注代金は当初三九三万円であったが、最終的に三二〇万円となり、右金額から手形割引料一六万円を差引いた残額の一割(三〇万四〇〇〇円)が被告の利益分であり、その残額二七三万六〇〇〇円が本来訴外会社の取得すべき額であるが、被告の支出した立替金はすべて訴外会社の負担すべき金額と考えられるので、一八万二〇〇〇円を控除すると、二五五万四〇〇〇円が訴外会社が被告に対して有する債権額となる。被告は、三菱工機からは約束手形で代金の支払を受けているが、右手形の割引料は受注金額から控除されることになっている本件においては、被告の訴外会社に対する該債務の弁済期は被告が右手形の交付を受けた昭和五一年六月一五日と認めるのが相当である。
四、次に一一〇〇NTに関して訴外会社の取得すべき債権額について検討する。
請求原因5項(一)のうち手形受領年月日を除く事実、(二)、(三)の事実はいずれも当事者間に争いがない。すなわち、受注金額が一二二〇万円、製造原価(訴外会社への発注金額)が六七〇万円、手形割引料が六一万円、被告の立替金額が三八万二五〇〇円であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨に照らすと、手形の受領日は昭和五〇年一一月二九日であること、訴外会社の取得しうる利益は総利益の六割であるとされていたことが認められる。
そこで利益の計算方法についてみるに、受注金額から手形割引料および製造原価を控除したものが総利益であるから、四八九万円(一二二〇-六一-六七〇)が総利益となり、その四割が被告、六割が訴外会社の取り分であるから、二九三万四〇〇〇円(四八九×〇・六)が訴外会社の本来取得すべき金額であるが、被告は訴外会社が負担すべき三八万二五〇〇円を立替えているのであるから右金額を控除すると、二五五万一五〇〇円が訴外会社が被告に対して有する債権額となる。
そしてその弁済期は、前三3と同様の理由により手形の授受が行われた昭和五〇年一一月二九日であると認めるのが相当である。
五、次に被告の有する他の債権額について順次みることとする。
1.請求原因6項(一)の事実(被告が四一〇二万一一〇〇円の債権を有する事実)は、当事者間に争いがない。
そして被告代表者尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる乙第二三号証の一、証人高橋勝の証言(第一回)、被告代表者本人尋問の結果(第一回)によると、被告の主張6項(一)(1)記載のとおり、被告は訴外会社に、昭和五〇年九月一八日に出張費二万円、同年一〇月一六日に公正証書作成費八二〇〇円、同月三〇日に給料として三九万二二〇〇円をそれぞれ貸付けた事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
2.被告代表者尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる乙第二三号証の二および被告代表者尋問の結果(第一回)によると、被告の主張6項(一)(2)記載のとおり会議費総額二五万九七七九円を立替えて支払った事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
3.請求原因6項の(一)(5)、(三)の事実は、いずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、前記乙第二三号証の二、いずれも成立に争いのない乙第六、第八、第九号証の各一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第四号証の一、二、第七号証、官公署作成部分の成立は当事者間に争いがなく、その余の部分の成立は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五号証を総合すると、訴外会社は、山口県防府市の訴外株式会社カネモト振出の約束手形三通(額面合計四九四万円)を所持していたが、金融機関に割引枠を有していなかったので、被告に依頼して手形割引をうるべく、自ら右手形に第一裏書をし、被告に第二裏書をしてもらって被告の枠で大阪信用金庫の手形割引をえ、右割引金をえていたこと、右手形が満期に不払となったので被告は大阪信用金庫から償還請求を受けて、手形を受戻したこと、しかし、第一裏書人である訴外会社には遡求に応じる能力がなく、振出人であるカネモトは任意に手形金の支払をしないので、被告は、やむなく弁護士加藤幸則に委任して、カネモトに対し右不渡手形三通(合計四九四万円)の支払を請求する訴訟を山口地方裁判所に提起し、その結果昭和五一年五月七日三五〇万円の支払を受けたが、そのための費用として、被告の主張6項(一)(3)記載のとおり支出したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そして右裁判費用は、右の事実関係のもとにおいては訴外会社の負担すべき金額を納めるのが相当である。
また、右カネモトより支払われた三五〇万円は、訴外会社に対する被告の遡求権をそれだけ消滅させたことは当事者間に争いがない。
4.原告は、昭和五〇年一二月ごろ訴外会社は被告に対し、別紙目録(二)記載の機械類を、総額三三二一万五〇〇〇円の債務の支払に代えて引渡したと主張し、被告は代物弁済を受けたことは認めるも、その機械類は別紙目録(三)記載のとおりであって、その額は六二六万一〇〇〇円にすぎないと主張するので代物弁済額について検討する。
(一)前記甲第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二九号証、第三〇号証の一ないし三、証人高橋勝の証言(第一回)、被告代表者尋問の結果(第一回)によると、訴外会社は、前判示のとおり昭和五〇年七月一八日から八月一八日の間四回にわたり総額二三三〇万円を被告から借り受けていたが、その債務について訴外会社の所有する機械類を新に担保に供することとし、昭和五〇年九月一一日訴外会社と被告との間で、右債務の弁済期を同年一二月二五日利息年一五パーセント等と定めた金銭消費貸借と右債務の支払のため別紙目録(一)記載の機械類を譲渡担保に供する旨の公正証書を作成したこと、そして被告はその二、三日後には、目的とされていた機械類を訴外会社等から、被告の三田工場へ持ち帰ったが、その持ち帰った械類は、別紙目録(三)記載のとおりであって、その中には、別紙目録(一)記載の機械に含まれているものも、含まれていないものもあったこと、被告は前認定のように、訴外会社が手形不渡りを出した昭和五〇年一〇月一三日以後も、訴外会社のため、貸付金や立替金を支出していたこと、その後も機械類は被告の占有下におかれたままであり、公正証書に記載された弁済期には訴外会社は支出をしなかったこと、同年一二月ごろ訴外会社は、被告の占有している機械類を債務の支払に代えて譲渡したが、その機械類は別紙目録(三)記載のとおりで、別紙目録(二)記載の内容とも一致していなかったことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(二)これらの事実によると、訴外会社が被告に対し、譲渡担保に供し、また代物弁済に供した機械類の種類および数量は、別紙目録(三)記載のとおりと考えられ、原告の主張とは必ずしも一致しておらず、代物弁済の額についても、原告は、三二二一万五〇〇〇円と主張し、証人高橋勝の証言(第一回)および甲第九号証中にはこれに副う部分があるが、甲第九号証が作成されたのは昭和五四年七月一四日であり、しかも右証人高橋の証言によると、その作成者平尾伊和男は、訴外会社の代表者であった高橋証人と現在同じ会社に属しており、しかも機械自体をまったく見ないで、しかも別紙目録(二)記載の機械について新品の販売価格から算定したことが認められるから、その価格(四五八一万九〇〇〇円)は、到底弁済額算定の根拠とはなしがたいと考えられる。
なお、右証人高橋も、右平尾の算定価格と訴外会社のそれまでの借入額とを根拠としたうえで、代物弁済に供した機械類は工場内に二、三か月在庫とされていたため価格が低下している点を考慮すると前記算定価格から三割程度の減額をした三三二一万五〇〇〇円が相当であると証言しているが、この額も右に述べた平尾の算定価格が信用できないこと、訴外会社の借入額は後述のとおり昭和五〇年末までに三八〇〇万円以上であること、減価率の根拠があいまいであることなどからすると、右証言もたやすく採用することができない。
一方被告は、右代物弁済を受けた機械類を他に転売した価格およびその後の評価額に基づき六二六万一〇〇〇円と主張し、被告代表者尋問の結果中にも同旨の供述があるが、代物弁済の額はその弁済時の価格によるべきものであって、その代物を他に転売した価格によるべきでないことはいうまでもないから、右の供述も採用することができない。
(三)そこで代物弁済の額を判断するに、前記認定事実によれば、被告は、昭和五〇年九月一一日二三三〇万円の債権の譲渡担保として機械類を取得し、その二、三日後には譲渡担保の目的物と考えられる目録(三)記載の機械を被告の工場に持帰り、右機械がそのまま代物弁済の目的物となっているのであるが、被告は、右担保権設定後代物弁済がなされるまでに、当時その経営状態が良好であるとは決していえない状態であったと考えられる訴外会社のために他にも貸付や立替払をしており、また、被告自身工作機械の部品の販売等を業とする機械取引の専門家であるということができるから、被告としては、譲渡担保取得時点および目的物持帰時点において目的物件の評価の額は被担保債権の額である二三三〇万円を下るものではないと判断していたことが明らかで、その評価には一応客観性があるとみるべきである。そして、本件代物弁済はそれより約三か月後に行われているから多少の価値減少を考慮すべきものであるとしても、なお叙上の事実からすると、少なくとも二三三〇万円の価値を有していたものと認めるのが相当である。そして、目的物件の価値が右以上であったことを認めるに足る的確な証拠はない。
そして弁論の全趣旨によると、右代物弁済は、右請求原因6項(一)(1)記載の債務の弁済に代えてなされたものと認められ、その時期は昭和五〇年一二月ごろであることは当事者間に争いがないが、その日について立証がないので後述の未収利息算出の関係では、同年一二月末日になされたものと認めるのが相当である。
5.(一)また弁論の全趣旨によれば、訴外会社が被告に対して債権を有した場合は、そのつど被告の有する反対債権を相殺する旨の合意が、訴外会社と被告との間に成立していたこと、その合意に基づき、被告は、預託を受けた約束手形のうち、被告振出の三通(額面総額八五〇万円)については、(ホ)の手形(額面一五〇万円)は満期の昭和五〇年一一月二六日付で、(ロ)の手形(額面二〇〇万円)は満期の同年一二月二六日に、(ヘ)の手形(額面五〇〇万円)は満期の昭和五一年三月二六日に、前記三〇〇Sに関する訴外会社の債権(二五五万四〇〇〇円)については同年六月一五日に、一一〇〇NTに関する訴外会社の債権(二五五万一五〇〇円)については同年一月三一日の時点でそれぞれ相殺されていることになることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そして株式会社カネモトより昭和五一年五月七日に不渡手形代金として三五〇万円が訴外会社に支払われ、これによって不渡手形の遡求金額(請求原因6(一)(5)(イ)の全額と(ロ)の一部)がそれだけ減額したことは当事者間に争いがない。
(二)以上認定してきた事実を総合すると、訴外会社の有していた被告に対する債権は、(1)預託した手形一〇通の額面金額に相当する預託金一四七〇万円、(2)三〇〇Sの機械の販売代金二五五万四〇〇〇円、(3)一一〇〇NTの機械の販売代金二五五万一五〇〇円であるが、右(1)の手形のうち被告振出の三通(額面合計八五〇万円)および(2)、(3)の機械代金とも相殺され、結局残額は、手形七通の額面に相当する六二〇万円となる。
これに対し、被告の訴外会社に対する債権(元本)は、(1)手形一〇通受戻し時の貸付金五五二万九六〇二円(二3参照)、(2)現金および手形としての貸付金四一四四万一五〇〇円(五1参照)、(3)会議費立替金二五万九七七九円(五2参照)、(4)裁判費用五三万六〇四〇円(五3参照)の総額四七七六万六九二一円であるが、訴外会社より代物弁済として二三三〇万円、株式会社カネモトより三五〇万円の支払を受け、前記のように自己の振出した手形金額八五〇万円、三〇〇Sと一一〇〇NTの機械代金五一〇万五五〇〇円を相殺しているのでこれらを控除すると、結局七三六万一四二一円となる。
(三)そして証人高橋勝の証言(第二回)、被告代表者尋問の結果(第一、二回)によると、前記一の経緯で被告が訴外会社に資金援助をすることになったが、その際被告の取得する債権については、手形取引のみならず貸付金、立替金についても日歩五銭の利息をつける旨の約定がされたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
(四)そこで以上認定してきた訴外会社と被告との間の取引関係を、その日付順に、被告の貸付金、立替金等の債権を貸金欄に、預託を受けた手形の額面金額(満期における支払金額)、弁済あるいは代物弁済を受けた額を入金欄にそれぞれ記載すると別表(四)のとおりとなる。
なお、被告の主張する別表(二)は、被告の入手した手形金の支払、代物弁済などがまったく入金欄に記載されておらず、到底採用できない。
(五)そこで右別表(四)に基づいて未収利息額を計算することとするが、まずその利率については、前認定のように被告と訴外会社との間では、被告の取得する債権すべてについて日歩五銭(年利一割八分二厘五毛)の利息をつける約定があり、右約定のもとで被告は昭和五〇年七月一八日以来貸付や立替払を行ってきたのであるから、このような取引の経緯にかんがみると、貸付金のみについて利息制限法の制限に服せしめると解するのは相当ではなく、立替金等を含めた被告の債権すべてについて、包括して利息制限法の制限を受けると解するのが相当である。
そして右別表(四)で明らかなように、被告の債権額は常に一〇〇万円以上であったのであるから、その利率の最高限度は年一割五分と認められる。
次に、被告は、破産宣告後の昭和五二年九月三〇日までの利息を含めて自働債権であると主張しているので検討するに、破産法によると、破産債権者は、その有する破産債権を自働債権として、破産財団に属する債権を受働債権として相殺をすることは禁じられてはいないけれども、相殺をすれば自働債権について完全な弁済を受けたのと同じ結果が得られることになるため、他の破産債権者との平等公平という見地から、破産法では相殺について特別の定めを設けている。即ち、期限付、解除条件付の債権でも相殺ができる(同法九九条参照。)としながら、一方では相殺できるのは、破産債権のうち劣後的取扱を受ける部分を控除した額に限っている(同法一〇二条参照。)。
このような破産法の趣旨からすると、利息債権のうちで相殺に供することができるのは、劣後的取扱を受ける破産宣告後の利息(同法四六条一号参照。)を除いた部分に限られるものと解するのが相当である。けだし、破産宣告後の利息も含めて自働債権となしうると解すると、破産宣告後の利息については完全な優先弁済を受けたのと同じ結果になり、これを他の破産債権者に対する公平の見地から劣後的破産債権とした法の趣旨を没却することになるからである。
したがって、自働債権となしうる利息債権は、破産宣告前日までに生じた部分に限られると解するのが相当である。
そこで別表(四)に基づいて、利率を年利一割五分として、破産宣告前日である昭和五一年一一月八日(翌一一月九日に訴外会社が破産宣告を受けたことは争いがない。)までの利息を計算すると、別表(五)記載のとおりとなり、未収利息の総額は二六九万九九四一円となる。
(六)したがって、被告の有する債権(元利金)総額(破産宣告後の利息を除く。)は、一〇〇六万一三六二円(元本七三六万一四二一円、破産宣告までの利息二六九万九九四一円)となる。
六、そして、被告の主張7項(二)の事実(相殺の意思表示)は、当裁判所に顕著である。
そうすると、原告の債権六二〇万円は右相殺によりすべて消滅したことになる。
七、よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 前川蒙志 中村隆次)
<以下省略>